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2130年の栗ようかん2018年2月27日

モンブランが好きだ。
ケーキのモンブランである。

だが問題がある。

私の知る限りここ30年でスポンジケーキ部分の体積が激烈に縮小しているのだ。
ケーキ部分とクリームの調和を重んじる私にとってはややさみしい傾向である。

ここで私の子供当時と現在を目視による測定で比較する。

 

【1980年代】

・クリーム 20%(黄色い)

・ケーキ  80%(いわゆるスポンジ)

・サイズ  L

 

当時は全体に大きく、スポンジ部分が多めである。

 

ところが

【2018年現在】

・クリーム 70%(茶色い)

・スポンジ 30%(スポンジやクッキー生地パイ生地に近いものなど)

・サイズ  M

と変化している(ように見える)。

 

以上から

  1. スポンジケーキ部分の割合が低下し全体が縮小している
  1. ケーキ部分のバリエーションが広がっている
  1. クリームの割合が高くなった
  1. クリーム部分の色が変化した

という傾向がみられる。

では私の望むモンブランは戻ってくるのか、現在の傾向から将来のモンブラン像を推定する。①全体に占めるスポンジ部分の割合は年々縮小をつづけ、ここ30年で50%ほどその割合が低下した。単純に10年間で16%強の割合で体積が縮小を続けていることから、10年後の2028年には3%程度まで割合が低下し、2030年にはケーキの割合がほぼ0%となり、事実上消滅するとみられる。耳をすませば「そろそろ無くしちまうか・・・!スポンジ!」というパティシエたちの心の声が聞こえるようだ。

またこれに伴い全体としてはS寄りのM程度のサイズに落ち着くとみられる。おなかいっぱい食べたい人は2つ買わないといけなくなるので、ケーキ店としては朗報かもしれない、こっちとしてはさみしいが。こうしてケーキ部分が0%となるにともない②ケーキ素材のバリエーションも消滅。ケーキが必要ないというのは、パティシエにとっていいことなのか悪いことなのかもはや判断できないが、その陰で涙を流す私のようなモンブランファンがいることを覚えていてほしい。ただ、泣いてばかりもいられない。

涙をぬぐいつつ現実を見つめるとそこには③クリーム100%のモンブランが・・・これが現実である。もはやお前に未練はないが、これはこれで進歩が続くはずである。その進歩の一つが、「茶色くなる」ということであるのだが、なぜ最近茶色のモンブランが増えたかご存じだろうか。

④かつては黄色のモンブランが優勢だった。アラフォー以上にとってはモンブランといえば黄色なのだ。実はこの黄色、クリーム作りに栗の甘露煮が利用されていことに由来している。甘露煮はその味わいが日本人の好みに合うことと、クチナシで着色した鮮やかな黄色がケーキに映えるとされたことで長年重宝されていたのだ。

一方、現在茶色いモンブランが増えているのは、栗本来の茶色が現れやすいマロングラッセや渋皮煮のペーストが好まれるようになったからである。そして、これにともない、原料も変更を余儀なくされた。黄色いモンブランで使用される甘露煮には渋皮をむきやすい中国栗が用いられていたのだが、渋皮煮が隆盛となるにつれ、和栗が使われる傾向が強まった。また和栗本来の味わいを残そうと栗ペーストに合わせる生クリームも控える傾向が生まれている。

こうなると生クリームが消滅するのも時間の問題である。モンブランが茶色くなることで酪農への影響も懸念される。モンブランをめぐって、大風吹けば桶屋がもうかる、的なことわざが生まれる可能性も否定できないのだ。「モンブラン茶色くなれば酪農家がちょっとがっかりする・・・」絶望的に語呂が悪い。

ともあれ、加速度的に和風化が進むモンブラン、これこそ、クールジャパンならぬ、くーりジャパンだ。40才を目前に、ダジャレを思いついたらすべて口に出す、あるいは文字に残すことにしている。ここまで読んでくれているあなたには感謝しかない。もうちょっとこの調子が続くが我慢して読んでほしい。
ここまで見てきたとおり、

A)ケーキが消滅
B)素材の和風化
C)生クリームと決別

という方向へ進んでいる。

この傾向が今後も進むと、将来のモンブランは和栗ペーストのみで作られた菓子、となることが避けられない。
つまり将来のモンブラン像とは「栗餡の塊」という結論以外になく、これはまぎれもなく、和菓子における「栗ようかん」(栗入りようかんではない)あるいは「栗よせ」である。

モンブランが日本にやってきたといわれるのが1930年代。それが100年後の2030年代には和菓子に限りなく近づくという皮肉な結果が待っている。日本の伝統文化の洗練性が顕著に表れる結果となったと同時にこの100年いったいなんだったんだ、という脱力感を禁じ得ない。

では、わたしの望むモンブランはもうやってこないのか。落胆するのはまだ早い。現在は和菓子店において、大福やどら焼きにクリームをあわせる製品が存在する。となれば今後、生クリームを包含した栗ようかんが生まれるのでは?という希望を捨てる必要はない。

たとえば、この生クリーム入り栗ようかんをカステラで挟んみ、シベリアをつくると、どうだろう?栗餡とスポンジが一体となるのだ。つまり、今後は栗ようかんのモンブラン化が進むのである。100年でモンブランが和菓子に合流することを考えると、2130年の栗ようかんは、栗ようかんという名の旧タイプモンブランとなることがあり得るのである。なんだ安心。まあ、そこまで長生きはできんだろうがな。

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